も猶《なほ》其音《そのおと》は絶《た》えず聞《きこ》える。おや/\裏庭《うらには》の榎《えのき》の大木《たいぼく》の彼《あ》の葉《は》が散込《ちりこ》むにしては風《かぜ》もないがと、然《さ》う思《おも》ふと、はじめは臆病《おくびやう》で障子《しやうじ》を開《あ》けなかつたのが、今《いま》は薄氣味惡《うすきみわる》くなつて手《て》を拱《こまぬ》いて、思《おも》はず暗《くら》い天井《てんじやう》を仰《あふ》いで耳《みゝ》を澄《す》ました。
 一分《いつぷん》、二分《にふん》、間《あひだ》を措《お》いては聞《きこ》える霰《あられ》のやうな音《おと》は次第《しだい》に烈《はげ》しくなつて、池《いけ》に落込《おちこ》む小※[#「さんずい+散」、42−12]《こしぶき》の形勢《けはひ》も交《まじ》つて、一時《いちじ》は呼吸《いき》もつかれず、ものも言《い》はれなかつた。だが、しばらくして少《すこ》し靜《しづ》まると、再《ふたゝ》びなまけた連續《れんぞく》した調子《てうし》でぱら/\。
 家《いへ》の内《うち》は不殘《のこらず》、寂《しん》として居《ゐ》たが、この音《おと》を知《し》らないではなく、
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