生《じゆくせい》は罵《のゝし》つた。池《いけ》を圍《かこ》んだ三方《さんぱう》の羽目《はめ》は板《いた》が外《はづ》れて壁《かべ》があらはれて居《ゐ》た。室數《へやかず》は總體《そうたい》十七もあつて、庭《には》で取※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]《とりまは》した大家《たいけ》だけれども、何百年《なんびやくねん》の古邸《ふるやしき》、些《すこし》も手《て》が入《はひ》らないから、鼠《ねずみ》だらけ、埃《ほこり》だらけ、草《くさ》だらけ。
 塾生《じゆくせい》と家族《かぞく》とが住《す》んで使《つか》つてゐるのは三室《みま》か四室《よま》に過《す》ぎない。玄關《げんくわん》を入《はひ》ると十五六疊《じふごろくでふ》の板敷《いたじき》、其《それ》へ卓子《テエブル》椅子《いす》を備《そな》へて道場《だうぢやう》といつた格《かく》の、英漢數學《えいかんすうがく》の教場《けうぢやう》になつて居《ゐ》る。外《そと》の蜘蛛《くも》の巣《す》の奧《おく》には何《なに》が住《す》んでるか、内《うち》の者《もの》にも分《わか》りはせなんだ。
 其日《そのひ》から數《かぞ》へて丁度《ちやうど》一週
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