おく》の方《はう》から一方《いつぱう》の襖《ふすま》を開《あ》けて、一方《いつぱう》の襖《ふすま》から玄關《げんくわん》へ通拔《とほりぬ》けられるのであつた。
 一方《いつぱう》は明窓《あかりまど》の障子《しやうじ》がはまつて、其外《そのそと》は疊《たゝみ》二疊《にでふ》ばかりの、しツくひ叩《だたき》の池《いけ》で、金魚《きんぎよ》も緋鯉《ひごひ》も居《ゐ》るのではない。建物《たてもの》で取※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]《とりま》はした此《こ》の一棟《ひとむね》の其池《そのいけ》のある上《うへ》ばかり大屋根《おほやね》が長方形《ちやうはうけい》に切開《きりひら》いてあるから雨水《あまみづ》が溜《たま》つて居《ゐ》る。雨落《あまおち》に敷詰《しきつ》めた礫《こいし》には苔《こけ》が生《は》えて、蛞蝓《なめくぢ》が這《は》ふ、濕《し》けてじと/\する、内《うち》の細君《さいくん》が元結《もとゆひ》をこゝに棄《す》てると、三七《さんしち》二十一日《にじふいちにち》にして化《くわ》して足卷《あしまき》と名《な》づける蟷螂《かまきり》の腹《はら》の寄生蟲《きせいちう》となるといつて塾
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