ひと》ツ向《むか》うの廣室《ひろま》へ行《ゆ》かうと、あへぎ/\六疊敷《ろくでふじき》を縱《たて》に切《き》つて行《ゆ》くのだが、瞬《またゝ》く内《うち》に凡《およ》そ五百里《ごひやくり》も歩行《ある》いたやうに感《かん》じて、疲勞《ひらう》して堪《た》へられぬ。取縋《とりすが》るものはないのだから、部屋《へや》の中央《まんなか》に胸《むね》を抱《いだ》いて、立《た》ちながら吻《ほつ》と呼吸《いき》をついた。
 まあ、彼《あ》の恐《おそろ》しい所《ところ》から何《ど》の位《くらゐ》離《はな》れたらうと思《おも》つて怖々《こは/″\》と振返《ふりかへ》ると、ものの五尺《ごしやく》とは隔《へだ》たらぬ私《わたし》の居室《ゐま》の敷居《しきゐ》を跨《また》いで明々地《あからさま》に薄紅《うすくれなゐ》のぼやけた絹《きぬ》に搦《から》まつて蒼白《あをじろ》い女《をんな》の脚《あし》ばかりが歩行《ある》いて來《き》た。思《おも》はず駈《か》け出《だ》した私《わたし》の身體《からだ》は疊《たゝみ》の上《うへ》をぐる/\まはつたと思《おも》つた。其《そ》のも一《ひと》ツの廣室《ひろま》を夢中《むちう
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