れ》に附着《くツつ》いて寢《ね》た。眠《ねむ》くはないので、ぱちくり/\目《め》を※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《あ》いて居《ゐ》ても、物《もの》は幻《まぼろし》に見《み》える樣《やう》になつて、天井《てんじやう》も壁《かべ》も卓子《テエブル》の脚《あし》も段々《だん/\》消《き》えて行《ゆ》く心細《こゝろぼそ》さ。
 塾《じゆく》の山田《やまだ》は、湯《ゆ》に行《い》つて、教場《けうぢやう》にも二階《にかい》にも誰《たれ》も居《を》らず、物音《ものおと》もしなかつた。枕頭《まくらもと》へ……ばたばたといふ跫音《あしおと》、ものの近寄《ちかよ》る氣勢《けはひ》がする。
 枕《まくら》をかへして、頭《つむり》を上《あ》げた、が誰《たれ》も來《き》たのではなかつた。
 しばらくすると、再《ふたゝ》び、しと/\しと/\と摺足《すりあし》の輕《かる》い、譬《たと》へば身體《からだ》の無《な》いものが、踵《きびす》ばかり疊《たゝみ》を踏《ふ》んで來《く》るかと思《おも》ひ取《と》られた。また顏《かほ》を上《あ》げると何《なん》にも居《を》らない。其時《そのとき》は前《まへ》より天窓《
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