きだ》す……後《あと》の車も続いて駈《か》け出す。と二台がちょっと摺《す》れ摺れになって、すぐ旧《もと》の通り前後《あとさき》に、流るるような月夜の車。
三
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お月様がちょいと出て松の影、
アラ、ドッコイショ、
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と沖の浪の月の中へ、颯《さっ》と、撥《ばち》を投げたように、霜を切って、唄い棄《す》てた。……饂飩屋《うどんや》の門《かど》に博多節を弾いたのは、転進《てんじん》をやや縦に、三味線《さみせん》の手を緩めると、撥を逆手《さかて》に、その柄で弾《はじ》くようにして、仄《ほん》のりと、薄赤い、其屋《そこ》の板障子をすらりと開けた。
「ご免なさいよ。」
頬被《ほおかむ》りの中の清《すず》しい目が、釜《かま》から吹出す湯気の裏《うち》へすっきりと、出たのを一目、驚いた顔をしたのは、帳場の端に土間を跨《また》いで、腰掛けながら、うっかり聞惚《ききと》れていた亭主で、紺の筒袖にめくら縞《じま》の前垂《まえだれ》がけ、草色の股引《ももひき》で、尻からげの形《なり》、にょいと立って、
「出ないぜえ。」
は、ずるいな。……案
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