う、何でも五日六日は逗留というつもりで。……山田では尾上町の藤屋へ泊った。驚くべからず――まさかその時は私だって、浴衣に袷《あわせ》じゃ居やしない。
着換えに紋付《もんつき》の一枚も持った、縞《しま》で襲衣《かさね》の若旦那さ。……ま、こう、雲助が傾城買《けいせいがい》の昔を語る……負惜《まけおし》みを言うのじゃないよ。何も自分の働きでそうした訳じゃないのだから。――聞きねえ、親なり、叔父なり、師匠なり、恩人なりという、……私が稼業じゃ江戸で一番、日本中の家元の大黒柱と云う、少兀《すこはげ》の苦い面《つら》した阿父《おやじ》がある。
いや、その顔色《がんしょく》に似合わない、気さくに巫山戯《ふざけ》た江戸児《えどッこ》でね。行年《ぎょうねん》その時六十歳を、三つと刻んだはおかしいが、数え年のサバを算《よ》んで、私が代理に宿帳をつける時は、天地人とか何んとか言って、禅《ぜん》の問答をするように、指を三本、ひょいと出してギロリと睨《にら》む……五十七歳とかけと云うのさ。可《い》いかね、その気だもの……旅籠屋の女中が出てお給仕をする前では、阿父《おとっ》さんが大の禁句さ。……与一兵衛じゃ
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