、可哀想《かわいそう》だ、と言ってくんねえ。……そうかと言って、こう張っちゃ、身も皮も石になって固《かたま》りそうな、背《せなか》が詰《つま》って胸は裂ける……揉んでもらわなくては遣切《やりき》れない。遣れ、構わない。」
 と激しい声して、片膝を屹《きっ》と立て、
「殺す気で蒐《かか》れ。こっちは覚悟だ、さあ。ときに女房《おかみ》さん、袖摺《そです》り合うのも他生《たしょう》の縁ッさ。旅空掛けてこうしたお世話を受けるのも前《さき》の世の何かだろう、何んだか、おなごりが惜《おし》いんです。掴殺《つかみころ》されりゃそれきりだ、も一つ憚《はばか》りだがついでおくれ、別れの杯になろうも知れん。」
 と雫《しずく》を切って、ついと出すと、他愛なさもあんまりな、目の色の変りよう、眦《まなじり》も屹《きっ》となったれば、女房は気を打たれ、黙然《だんまり》でただ目を※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みは》る。
「さあ按摩さん。」
「ええ、」
「女房《おかみ》さん酌《つ》いどくれよ!」
「はあ、」と酌をする手がちと震えた。
 この茶碗を、一息に仰ぎ干すと、按摩が手を掛けたのと一緒であった。

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