て来い、さあ、何んだ風車《かざぐるま》。」
急に勢《いきおい》の可《い》い声を出した、饂飩屋に飲む博多節の兄哥《あにい》は、霜の上の燗酒《かんざけ》で、月あかりに直ぐ醒《さ》める、色の白いのもそのままであったが、二三杯、呷切《あおっきり》の茶碗酒で、目の縁《ふち》へ、颯《さっ》と酔《よい》が出た。
「勝手にピイピイ吹いておれ、でんでん太鼓に笙《しょう》の笛、こっちあ小児《こども》だ、なあ、阿媽《おっか》。……いや、女房《おかみ》さん、それにしても何かね、御当処は、この桑名と云う所は、按摩の多い所かね。」と笛の音に瞳がちらつく。
「あんたもな、按摩の目は蠣《かき》や云います。名物は蛤《はまぐり》じゃもの、別に何も、多い訳はないけれど、ここは新地《しんち》なり、旅籠屋のある町やに因って、つい、あの衆《しゅ》が、あちこちから稼ぎに来るわな。」
「そうだ、成程|新地《くるわ》だった。」となぜか一人で納得して、気の抜けたような片手を支《つ》く。
「お師匠さん、あんた、これからその音声《のど》を芸妓屋《げいこや》の門《かど》で聞かしてお見やす。ほんに、人死《ひとじに》が出来ようも知れぬぜな。」と
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