の雁《がん》が前《さき》になって、改札口を早々《さっさ》と出る。
 わざと一足|後《うしろ》へ開いて、隠居が意見に急ぐような、連《つれ》の後姿をじろりと見ながら、
「それ、そこがそれ捻平さね。松並木で出来たと云って、何もごまのはいには限るまい。もっとも若い内は遣ったかも知れんてな。ははは、」
 人も無げに笑う手から、引手繰《ひったく》るように切符を取られて、はっと駅夫の顔を見て、きょとんと生真面目《きまじめ》。
 成程、この小父者《おじご》が改札口を出た殿《しんがり》で、何をふらふら道草したか、汽車はもう遠くの方で、名物焼蛤の白い煙を、夢のように月下に吐いて、真蒼《まっさお》な野路を光って通る。……
「やがてここを立出《たちい》で辿《たど》り行《ゆ》くほどに、旅人の唄うを聞けば、」
 と小父者、出た処で、けろりとしてまた口誦《くちずさ》んで、
「捻平さん、可《い》い文句だ、これさ。……
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時雨蛤《しぐれはまぐり》みやげにさんせ
   宮《みや》のおかめが、……ヤレコリャ、よオしよし。」
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「旦那《だんな》、お供はどうで、」
 と停車場《ステ
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