八にはぐれて、一人旅のとぼとぼと、棚からぶら下った宿屋を尋ねあぐんで、泣きそうになったとあるです。ところで其許は、道中松並木で出来た道づれの格だ。その道づれと、何《な》んと一口|遣《や》ろうではないか、ええ、捻平《ねじべい》さん。」
「また、言うわ。」
と苦い顔を渋くした、同伴《つれ》の老人は、まだ、その上を四つ五つで、やがて七十《ななそじ》なるべし。臘虎《らっこ》皮の鍔《つば》なし古帽子を、白い眉尖《まゆさき》深々と被《かぶ》って、鼠の羅紗《らしゃ》の道行《みちゆき》着た、股引《ももひき》を太く白足袋の雪駄穿《せったばき》。色|褪《あ》せた鬱金《うこん》の風呂敷、真中《まんなか》を紐で結《ゆわ》えた包を、西行背負《さいぎょうじょい》に胸で結んで、これも信玄袋を手に一つ。片手に杖《つえ》は支《つ》いたけれども、足腰はしゃんとした、人柄の可《い》いお爺様《じいさま》。
「その捻平は止《よ》しにさっしゃい、人聞きが悪うてならん。道づれは可《よ》けれども、道中松並木で出来たと言うで、何とやら、その、私《わし》が護摩《ごま》の灰ででもあるように聞えるじゃ。」と杖を一つとんと支くと、後《あと》
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