あぐ》んで、もう落胆《がっかり》しやした、と云ってな、どっかり知らぬ家《うち》の店頭《みせさき》へ腰を落込《おとしこ》んで、一服無心をした処……あすこを読むと串戯《じょうだん》ではない。……捻平さん、真からもって涙が出ます。」
 と言う、瞼《まぶた》に映って、蝋燭の火がちらちらとする。
「姉や、心《しん》を切ったり。」
「はい。」
 と女中が向うを向く時、捻平も目をしばたたいたが、
「ヤ、あの騒ぎわい。」
 と鼻の下を長くして、土間|越《ごし》の隣室《となり》へ傾き、
「豪《えら》いぞ、金盥《かなだらい》まで持ち出いたわ、人間は皆裾が天井へ宙乗りして、畳を皿小鉢が躍るそうな。おおおお、三味線太鼓が鎬《しのぎ》を削って打合う様子じゃ。」
「もし、お騒がしゅうござりましょう、お気の毒でござります。ちょうど霜月でな、今年度の新兵さんが入営なさりますで、その送別会じゃ言うて、あっちこっち、皆、この景気でござります。でもな、お寝《よ》ります時分には時間になるで静まりましょう。どうぞ御辛抱なさいまして。」
「いやいや、それには及ばぬ、それには及ばぬ。」
 と小父者、二人の女中の顔へ、等分に手を掉《
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