「あはは。」
 で捻平も打笑うと、……この機会に誘われたか、――先刻《さっき》二人が着いた頃には、三味線太鼓で、トトン、ジャカジャカじゃじゃじゃんと沸返るばかりだった――ちょうど八ツ橋形に歩行《あゆみ》板が架《かか》って、土間を隔てた隣の座敷に、およそ十四五人の同勢で、女交りに騒いだのが、今しがた按摩が影を見せた時分から、大河《おおかわ》の汐《しお》に引かれたらしく、ひとしきり人気勢《ひとけはい》が、遠くへ裾拡がりに茫《ぼう》と退《の》いて、寂《しん》とした。ただだだっ広い中を、猿が鳴きながら走廻るように、キャキャとする雛妓《おしゃく》の甲走《かんばし》った声が聞えて、重く、ずっしりと、覆《おっ》かぶさる風に、何を話すともなく多人数《たにんず》の物音のしていたのが、この時、洞穴《ほらあな》から風が抜けたように哄《どっ》と動揺《どよ》めく。
 女中も笑い引きに、すっと立つ。
「いや、この方は陰々としている。」
「その方が無事で可いの。」
 と捻平は火桶の上へ脊くぐまって、そこへ投出した膝栗毛を差覗《さしのぞ》き、
「しかし思いつきじゃ、私《わし》はどうもこの寝つきが悪いで、今夜は一つ枕許
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