。
「……とある、いかさまな。」
「床に活《い》けたは、白の小菊じゃ、一束《ひとたば》にして掴《つか》みざし、喝采《おお》。」と讃《ほ》める。
「いや、翁寂《おきなさ》びた事を言うわ。」
「それそれ、たったいま懲りると言うた口の下から、何んじゃ、それは。やあ、見やれ、其許《そこ》の袖口から、茶色の手の、もそもそとした奴《やつ》が、ぶらりと出たわ、揖斐川の獺《かわうそ》の。」
「ほい、」
と視《なが》めて、
「南無三宝《なむさんぼう》。」と慌《あわただ》しく引込《ひッこ》める。
「何んじゃそれは。」
「ははははは、拙者うまれつき粗忽《そこつ》にいたして、よくものを落す処から、内の婆《ばばあ》どのが計略で、手袋を、ソレ、ト左右糸で繋《つな》いだものさね。袖から胸へ潜《くぐ》らして、ずいと引張《ひっぱ》って両手へ嵌《は》めるだ。何んと恐しかろう。捻平さん、かくまで身上《しんしょう》を思うてくれる婆どのに対しても、無駄な祝儀は出せませんな。ああ、南無阿弥陀仏《なむあみだぶつ》。」
「狸《たぬき》めが。」
と背を円くして横を向く。
「それ、年増が来る。秘すべし、秘すべし。」
で、手袋をたく
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