かりぶね》の帆柱がすくすくと垣根に近い。そこに燭台を傍《かたわら》にして、火桶《ひおけ》に手を懸け、怪訝《けげん》な顔して、
「はて、お早いお着きお草臥《くたび》れ様で、と茶を一ツ持って出て、年増《としま》の女中が、唯今《ただいま》引込《ひっこ》んだばかりの処。これから膳にもしよう、酒にもしようと思うちょっとの隙間へ、のそりと出した、あの面《つら》はえ?……
この方、あの年増めを見送って、入交《いりかわ》って来るは若いのか、と前髪の正面でも見ようと思えば、霜げた冬瓜《とうがん》に草鞋《わらじ》を打着《ぶちつ》けた、という異体な面《つら》を、襖《ふすま》の影から斜《はす》に出して、
(按摩でやす。)とまた、悪く抜衣紋《ぬきえもん》で、胸を折って、横坐りに、蝋燭火《ろうそくび》へ紙火屋《かみぼや》のかかった灯《あかり》の向うへ、ぬいと半身で出た工合が、見越入道《みこしにゅうどう》の御館《おやかた》へ、目見得《めみえ》の雪女郎を連れて出た、化《ばけ》の慶庵と言う体《てい》だ。
要らぬと言えば、黙然《だんまり》で、腰から前《さき》へ、板廊下の暗い方へ、スーと消えたり……怨敵《おんてき》、退
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