ろ。」
「お方、八百屋の勘定は。」
と亭主|瞬《まばた》きして頤《あご》を出す。女房は面白半分、見返りもしないで、
「取りに来たらお払いやすな。」
「ええ……と三百は三銭かい。」
で、算盤を空に弾《はじ》く。
「女房《おかみ》さん。」
と呼んだ門附の声が沈んだ。
「何んです。」
「立続けにもう一つ。そして後《あと》を直ぐ、合点《がってん》かね。」
「あい。合点でございますが、あんた、豪《えら》い大酒《たいしゅ》ですな。」
「せめて酒でも参らずば。」
と陽気な声を出しかけたが、つと仰向《あおむ》いて眦《まなじり》を上げた。
「あれ、また来たぜ、按摩の笛が、北の方の辻から聞える。……ヤ、そんなにまだ夜は更けまいのに、屋根|越《ごし》の町一つ、こう……田圃《たんぼ》の畔《あぜ》かとも思う処でも吹いていら。」
と身忙《みぜわ》しそうに片膝立てて、当所《あてど》なく※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みまわ》しながら、
「音《おと》は同じだが音《ね》が違う……女房《おかみ》さん、どれが、どんな顔《つら》の按摩だね。」
と聞く。……その時、白眼《しろまなこ》の座頭の首が、月に蒼
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