が遠く見えて、私のからだは地《つち》を放れて、その頂より上の処に冷いものに抱えられていたようで、大きなうつくしい目が、濡髪をかぶって私の頬ん処へくっついたから、ただ縋《すが》り着いてじっとして眼を眠った覚《おぼえ》がある。夢ではない。
 やっぱり片袖なかったもの。そして川へ落《おっ》こちて溺れそうだったのを救われたんだって、母様のお膝に抱かれていて、その晩聞いたんだもの。
 だから夢ではない。
 一体助けてくれたのは誰ですッて、母様に問うた。私がものを聞いて、返事に躊躇《ちゅうちょ》をなすったのはこの時ばかりで、また、それは猪だとか、狼だとか、狐だとか、頬白だとか、山雀だとか、鮟鱇だとか、鯖《さば》だとか、蛆《うじ》だとか、毛虫だとか、草だとか、竹だとか、松蕈《まつたけ》だとか、湿地茸《しめじ》だとかおいいでなかったのもこの時ばかりで、そして顔の色をおかえなすったのもこの時ばかりで、それに小さな声でおっしゃったのもこの時ばかりだ。
 そして母様はこうおいいであった。
(廉や、それはね、大きな五色《ごしき》の翼《はね》があって天上に遊んでいるうつくしい姉さんだよ。)

       十一
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