雨上りだったから、堪《たま》りはしない。石の上へ辷《すべ》って、ずるずると川へ落ちた。わっといった顔へ一波《ひとなみ》かぶって、呼吸《いき》をひいて仰向《あおむ》けに沈んだから、面くらって立とうとすると、また倒れて、眼がくらんで、アッとまたいきをひいて、苦しいので手をもがいて身体《からだ》を動かすとただどぶんどぶんと沈んで行《ゆ》く。情《なさけ》ないと思ったら、内に母様の坐っていらっしゃる姿が見えたので、また勢《いきおい》づいたけれど、やっぱりどぶんどぶんと沈むから、どうするのかなと落着いて考えたように思う。それから何のことだろうと考えたようにも思われる。今に眼が覚めるのであろうと思ったようでもある、何だかぼんやりしたが俄《にわか》に水ん中だと思って叫ぼうとすると水をのんだ。もう駄目だ。
 もういかんとあきらめるトタンに胸が痛かった、それから悠々と水を吸った、するとうっとりして何だか分らなくなったと思うと、※[#「火+發」、164−5]《ぱっ》と糸のような真赤《まっか》な光線がさして、一幅《ひとはば》あかるくなったなかにこの身体《からだ》が包まれたので、ほっといきをつくと、山の端《は》
前へ 次へ
全44ページ中35ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング