たって可《い》いの、晴れたんだもの。」
「可いけれど、廉や、お前またあんまりお猿にからかってはなりませんよ。そう可い塩梅《あんばい》にうつくしい羽の生えた姉さんがいつでもいるんじゃあありません。また落っこちようもんなら。」
 ちょいと見向いて、清《すずし》い眼で御覧なすって、莞爾《にっこり》してお俯向《うつむ》きで、せっせと縫っていらっしゃる。
 そう、そう! そうだった。ほら、あの、いま頬《ほ》っぺたを掻いて、むくむく濡れた毛からいきりをたてて日向《ひなた》ぼっこをしている、憎らしいッたらない。
 いまじゃあもう半年も経《た》ったろう。暑さの取着《とッつき》の晩方頃で、いつものように遊びに行って、人が天窓《あたま》を撫《な》でてやったものを、業畜《ごうちく》、悪巫山戯《わるふざけ》をして、キッキッと歯を剥《む》いて、引掻《ひっか》きそうな剣幕をするから、吃驚《びっくり》して飛退《とびの》こうとすると、前足でつかまえた、放さないから力を入れて引張《ひっぱ》り合った奮《はず》みであった。左の袂《たもと》がびりびりと裂けて断《ちぎ》れて取れた、はずみをくって、踏占《ふみし》めた足がちょうど
前へ 次へ
全44ページ中34ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング