た、蛙《かはづ》がしきりになく。
仰《あを》いで高《たか》い処《ところ》に朱《しゆ》の欄干《らんかん》のついた窓《まど》があつて、そこが母様《おつかさん》のうちだつたと聞《き》く、仰《あほ》いで高《たか》い処《ところ》に朱《しゆ》の欄干《らんかん》のついた窓《まど》があつてそこから顔《かほ》を出《だ》す、其顔《そのかほ》が自分《じぶん》の顔《かほ》であつたんだらうにトさう思《おも》ひながら破《やぶ》れた垣《かき》の穴《あな》ん処《とこ》に腰《こし》をかけてぼんやりして居《ゐ》た。
いつでもあの翼《はね》の生《は》へたうつくしい人《ひと》をたづねあぐむ、其《その》昼《ひる》のうち精神《せいしん》の疲労《つかれ》ないうちは可《いゝ》んだけれど、度《ど》が過《す》ぎて、そんなに晩《おそ》くなると、いつもかう滅入《めい》つてしまつて、何《なん》だか、人《ひと》に離《はな》れたやうな世間《せけん》に遠《とほ》ざかつたやうな気《き》がするので、心細《こゝろぼそ》くもあり、裏悲《うらかな》しくもあり、覚束《おぼつか》ないやうでもあり、恐《おそ》ろしいやうでもある、嫌《いや》な心持《こゝろもち》だ、嫌《いや》な心持《こゝろもち》だ。
早《はや》く帰《かへ》らうとしたけれど気《き》が重《おも》くなつて其癖《そのくせ》神経《しんけい》は鋭《するど》くなつて、それで居《ゐ》てひとりでにあくびが出《で》た。あれ!
赤《あか》い口《くち》をあいたんだなと、自分《じぶん》でさうおもつて、吃驚《びつくり》した。
ぼんやりした梅《うめ》の枝《えだ》が手《て》をのばして立《た》つてるやうだ。あたりを※[#「目+旬」、第3水準1−88−80]《みまは》すと真《まつ》くらで、遠《とほ》くの方《はう》で、ほう、ほうツて、呼《よ》ぶのは何《なん》だらう。冴《さ》えた通《とほ》る声《こゑ》で野末《のずゑ》を押《おし》ひろげるやうに、啼《な》く、トントントントンと谺《こだま》にあたるやうな響《ひゞ》きが遠《とほ》くから来《く》るやうに聞《き》こえる鳥《とり》の声《こゑ》は、梟《ふくらう》であつた。
一《ひと》ツでない。
二《ふた》ツも三《みつ》ツも。私《わたし》に何《なに》を談《はな》すのだらう、私《わたし》に何《なに》を談《はな》すのだらう、鳥《とり》がものをいふと慄然《ぞつ》として身《み》の毛《け》が慄立《
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