マ」の注記]あつた、それでもない。皆《みんな》違《ちが》つとる。翼《はね》の生《は》へたうつくしい姉《ねえ》さんは居《ゐ》ないのッて、一所《いつしよ》に立《た》つた人《ひと》をつかまへちやあ、聞《き》いたけれど、笑《わら》ふものやら、嘲《あざ》けるものやら、聞《き》かないふりをするものやら、つまらないとけなすものやら、馬鹿《ばか》だといふものやら、番小屋《ばんごや》の媽々《かゝ》に似《に》て此奴《こいつ》も何《ど》うかして居《ゐ》らあ、といふものやら、皆《みんな》獣《けだもの》だ。
(翼《はね》の生《は》へたうつくしい姉《ねえ》さんは居《ゐ》ないの)ツて聞《き》いた時《とき》、莞爾《につこり》笑《わら》つて両方《りやうはう》から左右《さいう》の手《て》でおうやうに私《わたし》の天窓《あたま》を撫《な》でゝ行《い》つた、それは一様《いちやう》に緋羅紗《ひらしや》のづぼんを穿《は》いた二人《ふたり》の騎兵《きへい》で――聞《き》いた時《とき》――莞爾《につこり》笑《わら》つて、両方《りやうほう》から左右《さいう》の手《て》で、おうやうに私《わたし》の天窓《あたま》をなでゝ、そして手《て》を引《ひき》あつて黙《だま》つて坂《さか》をのぼつて行《い》つた、長靴《ながぐつ》の音《おと》がぼつくりして、銀《ぎん》の剣《けん》の長《なが》いのがまつすぐに二《ふた》ツならんで輝《かゞや》いて見《み》えた。そればかりで、あとは皆《みな》馬鹿《ばか》にした。
五日《いつか》ばかり学校《がくかう》から帰《かへ》つちやあ其足《そのあし》で鳥屋《とりや》の店《みせ》へ行《い》つてじつと立《た》つて奥《おく》の方《はう》の暗《くら》い棚《たな》ん中《なか》で、コト/\と音《おと》をさして居《ゐ》る其《その》鳥《とり》まで見覚《みおぼ》えたけれど、翼《はね》の生《は》へた姉《ねえ》さんは居《ゐ》ないのでぼんやりして、ぼツとして、ほんとうに少《すこ》し馬鹿《ばか》になつたやうな気《き》がしい/\、日《ひ》が暮《く》れると帰《かへ》り帰《かへ》りした。で、とても鳥屋《とりや》には居《ゐ》ないものとあきらめたが、何《ど》うしても見《み》たくツてならないので、また母様《おつかさん》にねだつて聞《き》いた。何処《どこ》に居《ゐ》るの、翼《はね》の生《は》へたうつくしい人《ひと》は何処《どこ》に居《ゐ》るの
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