うつくしい姉《ねえ》さんだよ)
第十一
(鳥《とり》なの、母様《おつかさん》)とさういつて其時《そのとき》私《わたし》が聴《き》いた。
此《これ》にも母様《おつかさん》は少《すこ》し口籠《くちごも》つておいでゝあつたが、
(鳥《とり》ぢやないよ、翼《はね》の生《は》へた美《うつく》しい姉《ねえ》さんだよ)
何《ど》うしても分《わか》らんかつた。うるさくいつたらしまひにやお前《まへ》には分《わか》らない、とさうおいひであつた、また推返《おしかへ》して聴《き》いたら、やつぱり、
(翼《はね》の生《は》へたうつくしい姉《ねえ》さんだつてば)
それで仕方《しかた》がないからきくのはよして、見《み》やうと思《おも》つた、其《その》うつくしい翼《はね》のはへたもの見《み》たくなつて、何処《どこ》に居《ゐ》ます/\ツて、せつツ[#「つツ」に「ママ」の注記]いても知《し》らないと、さういつてばかりおいでゝあつたが、毎日《まいにち》/\あまりしつこかつたもんだから、とう/\余儀《よぎ》なさゝうなお顔色《かほつき》で、
(鳥屋《とりや》の前《まへ》にでもいつて見《み》て来《く》るが可《いゝ》)
そんならわけはない。
小屋《こや》を出《で》て二|町《ちやう》ばかり行《ゆ》くと直《すぐ》坂《さか》があつて、坂《さか》の下口《おりくち》に一軒《いつけん》鳥屋《とりや》があるので、樹蔭《こかげ》も何《なん》にもない、お天気《てんき》のいゝ時《とき》あかるい/\小《ちひ》さな店《みせ》で、町家《まちや》の軒《のき》ならびにあつた。鸚鵡《あうむ》なんざ、くるツとした露《つゆ》のたりさうな、小《ちい》[#「ちい」はママ]さな眼《め》で、あれで瞳《ひとみ》が動《うご》きますね。毎日《まいにち》々々行《い》つちやあ立《た》つて居《ゐ》たので、しまひにやあ見知顔《みしりがほ》で私《わたし》の顔《かほ》を見《み》て頷《うなづ》くやうでしたつけ、でもそれぢやあない。
駒《こま》はね、丈《たけ》の高《たか》い、籠《かご》ん中《なか》を下《した》から上《うへ》へ飛《と》んで、すがつて、ひよいと逆《さかさ》に腹《はら》を見《み》せて熟柿《ぢくし》の落《おつ》こちるやうにぽたりとおりて餌《え》をつゝいて、私《わたし》をばかまひつけない、ちつとも気《き》に懸《か》けてくれやうとはしないで[#「いで」に「マ
前へ
次へ
全33ページ中28ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング