て、固くいいつけたわ。やっぱり疑ぐっているらしいよ。」
少年は火箸《ひばし》を手にして、ぐいぐい灰に突立てながら、不平なる顔色《かおつき》にて、
「一体疑ぐるッて何だろう。僕のおばあさんにもね、姉様《ねえさん》、髯《ひげ》が、(お孫さんも出世前の身体《からだ》だから、云々《うんぬん》が着いてはなりますまい。私は、私で、内の貞に気を着けますから、あなたもそこの処おぬかりなく。)ッさ。内証で言ったそうだ。変じゃないか、え、姉様、何を疑ぐッているんだろう。何か僕と、姉様と、不道徳な関係があるとでもいうことなんかね、それだと失敬極まるじゃあないか、え、姉様。」
と詰《なじ》り問うに、お貞は、
「ああ。」
と生返事、胸に手を置き、差俯向《さしうつむ》く。
少年は安からぬ思いやしけむ。
「じゃあ何だね、こないだあの騒ぎのあった前に、二人で奥に談話《はなし》をしていた時、髯が戸外《おもて》から帰って来たので、姉様は、あわアくって駈出《かけだ》したが、そのせいなの? 一体気が小さいから不可《いけな》いよ。いつに限らずだ。人が、がらりと戸を開けると、何だか大変なことでも見付かったように、どぎまぎ
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