幽霊かと思った。」
「いやな! 芳さんだ。恐いことね。」
お貞は身震いして横を向きぬ。少年は微笑《ほほえ》みたり。
「何だ、臆病《おくびょう》な。昼じゃあないか。」
「でもそんなことをお言いだと、晩に手水《ちょうず》に行《ゆ》かれやしないや。」
「そんなに臆病な癖にして、昨夜《ゆうべ》も髯と二人|連《づれ》で、怪談を聞きに行ったじゃあないか。」
お貞はまじめに弁解《いいわけ》して、
「はい、ですから切前《きりまえ》に帰りました。切前は茶番だの、落語だの、そりゃどんなにかおもしろいよ。」
「それじゃもう髯の御機嫌は直ったんだね。」
三
「別に直ったというでもないけれど、まああんなものさ。あれでもね、おばあさんには大変気の毒がってね、(お年寄がようよう落着《おちつき》なされたものを、またお転宅《ひっこし》は大抵じゃアあるまいから、その内可い処があったら、御都合次第お引越しなさるが可し、また一月でも、二月でも、家《うち》においでになっても差支えはございませんから)ッて、それッきりになってるのよ。そのかわりね、私にゃ、(芳さんと談話《はなし》をすることは決してならない)ッ
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