だと思って二階から覗《のぞ》くと、姉様《ねえさん》は突伏《つっぷ》して泣いてるし、髯は壇階子《だんばしご》の下口《おりぐち》に突立《つった》ってて、憤然《むっ》とした顔色《かおつき》で、(直ぐと明けてもらいたい。)と失敬ことを謂うじゃあないか。だから僕は不愉快で堪《たま》らないから、それからそのまんまで、家《うち》を出て、どこか可い家があったらと思ったけれど、探す時は無いもんだ。それから友達の処《ところ》へ泊って、牛《ぎゅう》を奢《おご》ってね、トランプをして遊んでいたんだ。僕あ一番強いんだぜ。滅茶々々に負かして悪体を吐《つ》いてやると、大変に怒ってね、とうとう喧嘩《けんか》をしちまったもんだから、翌晩《あくるばん》はそこに泊ることも出来ないので、仕方が無いから帰って来たんだ。」
 お貞は聞きつつ睨《にら》む真似して、
「憎らしいねえ。人の気も知らないで、お友達とトランプも無いもんだね。気が違やあしないかと、私ゃ自分でそう思った位だのにさ。」
「でも僕あ帰った時、(芳さん!)てって奥から出て来た、あの時の顔にゃ吃驚《びっくり》したよ。暮合《くれあい》ではあるし、亡《なく》なった姉さんの
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