といと潔よく言放てる、両の瞳の曇は晴れつ。旭光《きょっこう》一射霜を払いて、水仙たちまち凜《りん》とせり。
 病者は心地|好《よ》げに頷《うなず》きぬ。
「可《よ》し、よく聞け、お貞。人の死ぬのを一日待に待ち殺して、あとでよい眼を見ようというはずるい[#「ずるい」に傍点]ことだ。考えてみろ。お前は今までに人情の上から吾に数え切れない借があろう。それをな、その負債をな。今吾に返すんだ。吾はどうしても取ろうというのだ。」
 いと恐しき声にもおじず、お貞は一膝|乗出《のりいだ》して、看病疲れに繕わざる、乱れし衣紋《えもん》を繕いながら、胸を張りて、面《おもて》を差向け、
「旦那、どうして返すんです。」
「離縁しよう。いまここで、この場から離縁しよう。死にかかっている吾を見棄てて、芳之助と手を曳《ひ》いて、温泉へでも湯治に行《ゆ》け。だがな、お前は家附の娘だから、出て行《ゆ》くことが出来ぬと謂えば、ナニ出て行くには及ばんから、床ずれがして寝返りも出来ない、この吾を、芳之助と二人で負《おぶ》って行って、姨捨山《おばすてやま》へ捨てるんだ。さ、どちらでも構わない。ただ、(人の妻たる者が、死にかか
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