入るばかりに咽《むせ》びつつ、しばらく苦痛を忍びしが、がらがらと血を吐きたり。
 いつもかかることのある際には、一刀《ひとかたな》浴びたるごとく、蒼《あお》くなりて縋《すが》り寄りし、お貞は身動《みうごき》だもなし得ざりき。
 病者は自ら胸を抱《いだ》きて、眼《まなこ》を瞑《ねむ》ること良久《ひさ》しかりし、一際《ひときわ》声の嗄《から》びつつ、
「こう謂えばな、親を蹴殺《けころ》した罪人でも、一応は言訳をすることが出来るものをと、お前は無念に思うであろうが、法廷で論ずる罪は、囚徒が責任を負ってるのだ。
 今お前が言訳をして、今日からどんな優しい気になろうとも、とても助からない吾に取っては、何の利益も無いことで、死んでしまえば、それ、お前は日本晴で、可いことをして楽《たのし》むんじゃ。そううまくはきっとさせない。言訳がましいことを謂うな。聞くような吾でもなし。またお前だってそうだ。人殺《ひとごろし》よりなおひどい、(死んでくれれば可い)と思うほどの度胸のある婦人《おんな》でないか。しっかりとしろ! うむ、お貞。」
 お貞は屹《きっ》と顔を上げて、
「はい、決して申訳はいたしません。」

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