う好《すき》なまねをお前にされて、吾も男だ、指を啣《くわ》えて死にはしない。
 といつも思っていたんだが、もうこの肺病には勝たれない、いや、つまり、お前に負けたのだ。
 してみれば、お貞、お前が呪詛《のろい》殺すんだと、吾がそう思っても、仕方があるまい。
 吾はどのみち助からないと、初手ッから断念《あきら》めてるが、お貞、お前の望が叶《かの》うて、後で天下|晴《ばれ》に楽《たのし》まれるのは、吾はどうしても断念められない。
 謂うと何だか、女々しいようだが、報のない罪をし遂げて、あとで楽《たのしみ》をしようという、虫の可いことは決して無い。またそうさせるような吾でもない。
 お貞、謝罪《わび》をしちゃあ可《い》かんぞ。お前は何も謝罪をすることもなし、吾も別に謝罪を聞く必要も認めんじゃ。悪かったというて謝罪をすればそれで済む、謝罪を聞けば了簡すると、そんな気楽なことを思うと、吾のいうことが分るまいでな。何でもしたことには、それ相当の報酬《むくい》というものが、多くもなく、少なくもなく、ちょうど可いほどあるものだと、そう思ってろ! 可いか、お貞、……お貞。」
 と少し急《せ》き込みて、絶え
前へ 次へ
全67ページ中59ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング