(死ねばいい)が見えるようなの。
恐しくッてたまらないから、どうぞこの念がなくなりますようにと、観音様に願っても、罪が深いせいなのか、段々強くなるばかり。
気のせいか知らないけれど、旦那は日に日に血色が悪くなって、次第に弱って行く様子、こりゃ思いが届くのかと考えると、私ゃもう居ても起《た》っても堪《たま》らない。
だから旦那が煩いでもすると、ハッと思って、こりゃどうでも治さないと、私が呪詛《のろい》殺すのだと、もうもうさほどでもない病気でも、夜《よ》の目も寝ないで介抱するが、お医者様のお薬でも、私の手から飲ませると、かえって毒になるようで、何でも半日ばかりの間は、今にも薬の毒がまわって、血でも吐きやしないかしらと、どうしてその間の心配というものは! でもそれでもやっぱり考えることといったら、ちっとも違《ちがい》はない、(死ねば可い。)で、早くなおって欲しいのは、実は(死ねば可い。)と思うからだよ。
ねえ、芳さん分ったろう。もう胸が一杯で、口も利かれやしないから、後生だ、推量しておくれ。も、私ゃ、私はもう芳さんどうしたら可いんだねえ。」
と身を震わしたるいじらしさ!
お貞がこ
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