てね、旦那が、旦那が、どうにかして。
 死んでくれりゃいい。死んでくれりゃいい。死ねばいい。死ねばいい。
 とそう思うようになったんだよ。ああ、罪の深い、呪詛《のろ》うのも同一《おんなじ》だ。親の敵《かたき》ででもあることか、人並より私を思ってくれるものを、(死んでくれりゃいい)と思うのは、どうした心得違いだろうと、自分で自分を叱ってみても、やっぱりどうしてもそう思うの。
 その念《おもい》が段々|嵩《こう》じて、朝から晩まで、寝てからも同一《おんなじ》ことを考えてて、どうしてもその了簡《りょうけん》がなおらないで、後暗いことはないけれど、何《なん》に着け、彼《か》に着け、ちょっとの間もその念《おもい》が離れやしない。始終そればかりが気にかかって、何をしても手に着かないしね、じっと考えこんでいる時なんざ、なおのこと、何にも思わないでその事ばかり。ああ、人の妻の身で、何たる恐しい了簡だろうと、心の鬼に責められちゃあ、片時も気がやすまらないで、始終胸がどきどきする。
 それがというと、私の胸にあることを、人に見付かりやしまいかと、そう思うから恐怖《こわい》んだよ。
 わけても、旦那に顔を見
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