ょいとこさ)を追返したよりは、なお酷《ひど》く安くしてるんだ。その癖、世間じゃ、(西村の奥様は感心だ。今時の人のようでない。まるで嫁にきたて[#「きたて」に傍点]のように、旦那様を大事にする。婦人《おんな》はああ行《ゆ》かなければ嘘だ。貞女の鑑《かがみ》だ。しかし西村には惜《おし》いものだ。)なんとそう言ってるぞ。そうすりゃ世間も恐しくはなかろうに、何だって、あんなにびくびくするのかなあ。だから姉様は陰弁慶だ。」
と罪もなくけなし[#「けなし」に傍点]たるを、お貞は聞きつつ微笑《ほほえ》みたりしが、ふと立ちて店に出《い》で行《ゆ》き、往来の左右を視《なが》め、旧《もと》の座に帰りて四辺《あたり》を※[#「目+句」、第4水準2−81−91]《みまわ》し、また板敷に伸上りて、裏庭より勝手などを、巨細《こさい》に見て座に就きつ。
「それはね、芳さん、こうなのよ。」
という声もハヤふるえたり。
「芳さんだと思って話すのだから、そう思ッて聞いておくれ。
私はね、可いかい。そのつもりで聞いておくれ。私はね、いつごろからという確《たしか》なことは知らないけれど、いろんな事が重《かさな》り重りし
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