と後生《ごしょう》のことも思われるよ。
あれは、えらい僧正だって、旦那の勧める説教を聞きはじめてから、方々へ参詣《まい》ったり、教《おしえ》を聞いたりするんだがね。なるほどと思うことばかり、それでも世の中に逆らッて、それで、御利益があるッてことは、ちっとも聞かしちゃあくれないものを。
戸を推《お》ッつけてる雪のような、力の強い世の中に逆らって行《ゆ》こうとすると、そりゃ弱い方が殺されッちまうわ。そうすりゃもう死ぬより他《ほか》はないじゃないかね。
私ももうもう死んでしまいたいと思うけれど、それがまたそうも行《ゆ》かないものだし、このごろじゃ芳さんという可愛いものが出来たからね、私ゃ死ぬことは嫌になったわ。ほんとうさ! 自分の児が可愛いとか、芳さんとこうやって談話《はなし》をするのが嬉しいとか、何でも楽《たのし》みなことさえありゃ、たとい辛くッても、我慢が出来るよ。どうせ、私は意気地なしで、世間に負けているからね、そりゃ旦那は大事にもする、病気《やまい》が出るほど嫌な人でも、世間《よのなか》にゃ勝たれないから、たとい旦那が思い切って、縁を切ろうといってもね、どんな腹いせでも旦那にさ
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