て、あの児も大層姉おもいだと見えまして、姉様々々ッて慕ってくれますもんですから、私もつい可愛くなります。)と無理だとは言われないつもりで言ったけれど、(他人で、姉弟というがあるものか)ッて、真底から了簡《りょうけん》しないの。傍《そば》に居た伯父さんも、伯母さんも、やっぱりおんなじようなことを言って、(ふむ、そんなことで世の中が通るものか。言ようもあろうのに、ナニ姉弟分だ。)とこうさ。口惜《くや》しいじゃあないかねえ。芳さん、たとい芳さんを抱いて寝たからたッて、二人さえ潔白なら、それで可いじゃあないか、旦那が何と言ったって、私ゃちっとも構やしないわ。」
お貞はかく謂えりしまで、血色勝れて、元気よく、いと心強く見えたりしが、急に語調の打沈みて、
「しかしこうはいうものの、芳さん世の中というものがね、それじゃあ合点《がってん》しないとさ。たとい芳さんと私とが、どんなに潔白であッたからっても、世間じゃそうとは思ってくれず、(へん、腹合せの姉弟だ。)と一万石に極《きめ》っちまう! 旦那が悪いというでもなく、私と芳さんが悪いのでもなく、ただ悪いのは世間だよ。
どんなに二人が潔白で、心は雪のよ
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