まって、私の身体《からだ》を縛ったろうね。食べさしておくせいだといえば、私ゃ一人で針仕事をしても、くらしかねることもないわ。ねえ、芳さん、芳さんてばさ。」
 少年は太《いた》くこの答に窮して、一言もなく聞きたりけり。

       十一

 お貞はなおも語勢強く、
「ほんとに虫のいい談話《はなし》じゃないかね、それとも私の方から、良人になッて下さいって、頼んで良人にしたものなら、そりゃどんなことでも我慢が出来るし、ちっとも不足のあるもんじゃあないが、私と旦那なんざ、え、芳さん、夫にした妻ではなくッて、妻にした良人だものを。何も私が小さくなッて、いうことを肯《き》いて縮んでいる義理もなし、操を立てるにも及ばないじゃあないか。
 芳さんとだってそうだわ。何もなかをよくしたからとッて、不思議なことはないじゃあないかね。こないだ騒ぎが持上って、芳さんがソレ駈出《かけだ》した、あの時でも、旦那がいろいろむずかしくいうからね、(はい、芳さんとは姉弟分《きょうだいぶん》になりました。どういう縁だか知らないけれど、私が銀杏返《いちょうがえし》に結っていますと、亡なった姉様《ねえさん》に肖《に》てるッ
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