ままにしておきながら、まだ不足で、たとえば芳さんと談話《はなし》をすることはならぬといわれりゃ、やっぱり快く落着いて談話も出来ないだろうじゃないかね。
 一体操を守れだの、良人に従えだのという、捉《おきて》かなんか知らないが、そういったようなことを極《き》めたのは、誰だと、まあ、お思いだえ。
 一遍婚礼をすりゃ疵者《きずもの》だの、離縁《さられ》るのは女の恥だのッて、人の身体《からだ》を自由にさせないで、死ぬよりつらい思いをしても、一生嫌な者の傍《そば》についてなくッちゃあならないというのは、どういう理窟だろう、わからないじゃないかね。
 まさか神様や、仏様のおつげ[#「おつげ」に傍点]があったという訳でもあるまいがね。もともと人間がそういうことを拵《こしら》えたのなら、誰だって同一《おんなじ》人間だもの、何|密夫《まおとこ》をしても可い、駈落《かけおち》をしても可いと、言出した処で、それが通って、世間がみんなそうなれば、かえって貞女だの、節婦だの、というものが、爪《つま》はじきをされようも知れないわ。
 旦那は、また、何の徳があって、私を自由にするんだろう。すっかり自分のものにしてし
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