なさい)と庇《かば》ってくれるの。そうして、(あんな母様《おっかさん》は不可《いけない》のう、ここへ来い)と旦那が手でも引こうもんなら、それこそ大変、わッといって泣出したの。
(あ、あ、)と旦那が大息をして、ふいと戸外《おもて》へ出てしまうと、後で、そっと私の顔を見ちゃあ、さもさもどうも懐しそうに、莞爾《にっこり》と笑う。そのまた愛くるしさッちゃあない。私も思わず莞爾して、引ッたくるように膝へのせて、しっかり抱《だき》しめて頬をおッつけると、嬉しそうに笑ッちゃあ、(父様《おとっちゃん》が居ないと可い)と、それまたお株を言うじゃあないかえ。
だもんだから、つい私もね、何だか旦那が嫌になったわ。でも或時《いつか》、
(お貞、吾《おれ》も環にゃ血を分けたもんだがなあ。)とさも情《なさけ》なそうに言ったのには、私も堪《たま》らなく気の毒だったよ。
前世の敵《かたき》同士ででもあったものか、芳さん、環がじふてりやでなくなる時も、私がやる水は、かぶりつくようにして飲みながら、旦那が薬を飲ませようとすると、ついと横を向いて、頭《かぶり》を掉《ふ》って、私にしがみついて、懐へ顔をかくして、いやいや
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