かりじゃ、緊《しまり》が出来ない、病気が快《よ》くなったら直ぐ来てくれ。)と頼むようにいって来ても、何《なん》の、彼《か》のッて、行かないもんだから、お聞きよ、まあ、どうだろうね。行ってから三月も経《た》たない内に、辞職をして帰って来て、(なるほどお前なんざ、とても住めない、新潟は水が悪い)ッさ。まあ!
するとまた環がね、どういうものか、はきはきしない、嫌にいじけッちまって、悪く人の顔色を見て、私の十四五の時見たように、隅の方へ引込《ひっこ》んじゃあ、うじうじするから、私もつい気が滅入《めい》って、癇癪《かんしゃく》が起るたんびに、罪もないものを……」
と涙を浮《うか》め、お貞はがッくり俯向《うつむ》きたり。
「その癖、旦那は、環々ッて、まあ、どんなに可愛がったろう。頭へ手なんざ思いも寄らない、睨《にら》める真似をしたこともなかったのに、かえって私の方が癇癪を起しちゃ、(母様《おっかちゃん》)と傍《そば》へ来るのを、
(ええ、も、うるさいねえ、)といって突飛ばしてやると、旦那が、(咎《とが》もないものをなぜそんなことをする)てッて、私を叱るとね、(母様を叱っては嫌よ、御免なさい御免
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