っかちゃん》、父様が居ないと可いねえ)ッさ。五歳《いつつ》や六歳《むッつ》で死んで行く児《こ》は、ほんとうに賢いのね。女の児《こ》はまた格別情愛があるものだよ。だからもう世の中がつまらなくッて、つまらなくッて、仕様がなかったのを、児《こども》のせいで紛れていたがね、去年(じふてりや)で亡くなってからは、私ゃもう死んでしまいたくッて堪《たま》らなかったけれど、旦那が馬鹿におとなしくッて、かッと喧嘩することがないものだから、身投げに駈出《かけだ》す機《おり》がなくッて、ついぐずぐずで活《い》きてたが、芳ちゃん、お前に逢ってから、私ゃ死にたくなくなったよ。」
と、じっとその手をしめたるトタンに靴音高く戸を開けたり。
八
お貞はいかに驚きしぞ、戸のあくともろともに器械のごとく刎《は》ね上りて、夢中に上り口に出迎《いでむか》えつ。蒼《あお》くなりて瞳を据えたる、沓脱《くつぬぎ》の処に立ちたるは、洋服|扮装《でたち》の紳士なり。頤《おとがい》細く、顔|円《まろ》く、大きさ過ぎたる鼻の下に、賤《いや》しげなる八字髭《はちじひげ》の上唇を蔽《おお》わんばかり、濃く茂れるを貯えたる
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