ら、しまいにゃあ泣声で、(私には出来ません、先生々々。)と呼ぶと、顔も動《うごか》さなけりゃ、見向きもしないで、(遣ってみるです。)というッきりで、取附《とりつく》島も何にもないと。それでも遣ってみても出来そうもない奴は、立ったり、居たり、ボウルドの前へ出ようとして中戻《ちゅうもどり》をしたり、愚図《ぐず》々々|迷《まご》ついてる間に、柝《たく》が鳴って、時間が済むと、先生はそのまんまでフイと行ってしまうんだッて。そんな時あ問題を一つ見たばかりで、一時間まる遊び。」
七
「だから、西岡は何でも一方に超然として、考えていることがあるんだろう。えらい! という者もあるよ。」
お貞は「何の。」という顔色《かおつき》。
「考えてるッて、大方内のことばかり考えてて、何をしても手が附かないでいるんだろう。聞いて御覧、芳さんが来てからは、また考えようがいっそきびしいに相違《ちがい》ないから。何だって、またあの位、嫉妬《しっと》深い人もないもんだね。
前にも談《はな》した通り、旦那はね、病気で帰省をしてから、それなり大学へは行《ゆ》かないで、ただぶらぶらしていたもんだから、沢山《
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