た、武者修行のような男。」
「ああ、ああ、鉄扇でものをいう人かえ。」
「うむ、彼奴《あいつ》さ、彼奴がさ。髯の傍《そば》へずいと出て、席から名を尋ねた学生に向って、(おい、君、この先生か。この先生ならそうだ、名は※[#始め二重括弧、1−2−54]チョイトコサ※[#終わり二重括弧、1−2−55]だ。)と謂ったので、組《クラス》一統がわッといって笑ッたって、里見がいつか話したっけ。」
お貞は溜《ため》いきをもらしたり。
「嫌になっちまう! じゃ、まるでのっけ[#「のっけ」に傍点]から安く踏まれて、馬鹿にされ切っていたんだね。」
「でもなかにゃああ見えても、なかなか学問が出来るんだって、そういってる者もあるんだ。何《なん》しろ、教場へ出て来ると、礼式もないで、突然《いきなり》、ボウルドに問題を書出して、
(何番、これを。)
といったきり椅子にかかッて、こう、少しうつむいて、肱《ひじ》をついて、黙っているッて。呼ばれた番号の奴は災難だ。大きに下稽古《したげいこ》なんかして行かなかろうものなら、面くらって、(先生私には出来ません。)といってみても返事をしない。そのままうっちゃっておくもんだか
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