ゃっぽ》で、羽織がというと、縞《しま》の透綾《すきや》を黒に染返したのに、五三の何か縫着紋《ぬいつけもん》で、少し丈不足《たけたらず》というのを着て、お召が、阿波縮《あわちぢみ》で、浅葱《あさぎ》の唐縮緬《とうちりめん》の兵児帯《へこおび》を〆《し》めてたわ。
どうだい、芳さん、私も思わず知らず莞爾《にっこり》したよ、これは帰って[#「帰って」は底本では「帰つて」]来たのが嬉しいのより、いっそその恰好が可笑《おかし》かったせいなのよ。
病気で帰ったというこッたから、私も心配をして、看病をしたがね、胃病だというので、ちょいとは快《よ》くならない。一月も二月も、そうさ[#「そうさ」は底本では「さうさ」]、かれこれ三月ばかりもぶらぶらして、段々瘠せるもんだから、坊やは居るし、私もつい心細くなッて、そっと夜出掛けちゃあお百度を踏んだのよ。するとね、その事が分ったかして、
(お貞、そんなに吾《おれ》を治したいか)ッて、私の顔を瞻《みつ》めるからね。何の気なしで、(はい、あなたがよくなって下さいませねば、どうしましょう、私どもは路頭に立たなければなりません。)と真実《ほんとう》の処をいったのよ
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