てたわ。
私ゃお祖父さんのことばかり考えて、別に何にも良人《さき》の事は思わないもんだから、ちょいと見たばかりで、ずんずん葛籠《つづら》の裡《なか》へしまいこんで打棄《うっちゃ》っといたわ。すると、いつのことだッけか、何かの拍子、お友達にめっかってね、
(まあ! お貞さん、旦那様は飛んだ御深切なお方だねえ。)サ酷《ひど》く擽《くすぐ》ったもんだろうじゃあないかえ。
それもそのはずだね。写真の裏に一葉《ひとつ》々々、お墨附があってよ。年、月、日、西岡時彦|写之《これをうつす》、お貞殿へさ。
私もつい口惜《くやし》紛れに、(写真の儀はお見合せ下されたく、あまりあまり人につけても)ッさ。何があまりあまりだろう、可笑《おかし》いね。そういってやると、それッきりおやめになったが、十四五枚もあった写真を、また見られちゃあ困ると思ったがね、人にも遣《や》られず、焼くことも出来ずさ、仕方がないから、一|纏《まと》めにして、お持仏様の奥ン処へ容《い》れておいてよ。毎日拝んだから可いではないかね。」
先刻《さき》に干したる湯呑の中へ、吸子の茶の濃くなれるを、細く長くうつしこみて、ぐっと一口飲みたる
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