をばささんとして、鉄瓶に手を懸けたる、片手を指折りて数えみつ。
「十五の違《ちがい》だね。もっとも晩学だとかいうので、大抵なら二十五六で、学士になるのが多いってね。」
「無論さ。」
 と少年は傾聴しながら喙《くち》を容《い》れたり。
 お貞は煎茶を汲出《くみい》だして、まず少年に与えつつ、
「何だか知らないけれど、御婚礼をした時分は、嬉しくもなく、恐《こわ》くもなく、まるで夢中で、何とも思やしなかったが、実はおじいさんと二人ばかりで、他所《よそ》の人の居ない方が、御膳《ごぜん》を頂く時やなんか、私ゃ気が置けなくて可《よ》かったわ。
 変に気が詰まって、他人《ひと》の内へ泊《とまり》にでも行ったようで、窮屈で、つまらなくッて、思ってみればその時分から旦那が嫌いだったかも知れないよ。でも大方甘やかされた癖で、我儘《わがまま》の方が勝ってたのであろうと思う。
 そのうちお祖父さんも安心をなすったせいか、大層気分も好《よ》くなるし、いよいよ旦那が東京へたつというので、祝ってたたしたお酒の座で、ちっと飲《のみ》ようが多かったのがもとになってね、旦那が出発をしたそのおひるすぎに、お祖父|様《さん》
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