りて、茶棚より銅《あかがね》の水差を取下して急がわしく水を注《さ》しつ。
「いいえ、違うよ。私のはまた全く芳さんの姉さんとは反対《あちこち》で、あんまり深切にされるから、もう嫌で、嫌で、ならないんだわ。」
少年は太《いた》く怪《あやし》み、
「そんな事っちゃアあるもんでない。何だって優しくされて、それで嫌だというがあるものか。」
「まあさ、お聞きなね。深切だといえば深切だが、どちらかといえば執着《しつこ》いのだわ。かいつまんで話すがね、ちょいと聞賃をあげるから。」
と菓子皿を取出《とりいだ》して、盛りたる羊羹《ようかん》に楊枝《ようじ》を添え、
「一ツおあがり、いまお茶を入替えよう。」
と吸子の茶殻を、こぼしにあけ、
「芳ちゃんだから話すんだよ。誰にも言っちゃ不可《いけな》いよ。実は私の父親《おとっさん》は、中年から少し気が違ったようになって、とうとうそれでおなくなりなすったがね、親のことをいうようだけれど、母様《おっかさん》は少し了簡違《りょうけんちが》いをして、父親《おとっさん》が病気のあいだに、私には叔父さんだ、弟ごと関着《くッつ》いたの。
するとお祖父《じい》さんのお計
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