姉様がわざと縫って寄来《よこ》したもんだから、大事にして着ているんだ。」
「そのせいで似合うのかねえ。」
とお貞は今更のごとく少年の可憐なる状《さま》ぞ瞻《みまも》られける。水上芳之助は年紀《とし》十六、そのいう処、行う処、無邪気なれどもあどけなからず。辛苦のうちに生《おい》たちて浮世を知れる状見えつ。もののいいぶりはきはきして、齢《よわい》のわりには大人びたり。
四
要なければここには省く。少年はお蓮《れん》といえりし渠《かれ》の姉が、少《わか》き時配偶を誤りたるため、放蕩《ほうとう》にして軽薄なる、その夫判事なにがしのために虐遇され、精神的に殺されて入水して果てたりし、一条の惨話を物語りつ。語《ことば》は簡に、意は深く、最もものに同情を表して、動かされ易きお貞をして、悲痛の涙に咽《むせ》ばしめたり。
語を継ぎて少年言う。
「姉様《ねえさん》もやっぱり酷《ひど》いめにあわされるから、それで髯《ひげ》が嫌なんだろう。」
折からぶつぶつと湯の沸返《にえかえ》りて、ぱっと立ちたる湯気に驚き、少年は慌《あわただ》しく鉄瓶の蓋《ふた》を外し、お貞は身を斜《ななめ》にな
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