憚《はばか》りさまやの、とて衝《つ》と裳《もすそ》を掲げたるを見れば、太脛《ふくらはぎ》はなお雪のごときに、向う脛《ずね》、ずいと伸びて、針を植えたるごとき毛むくじゃらとなって、太き筋、蛇《くちなわ》のごとくに蜿《うね》る。これに一堪《ひとたま》りもなく気絶せり。猿の変化《へんげ》ならんとありしと覚ゆ。山男の類なりや。
またこれも何の書なりしや忘れたり。疾《はや》き流れの谿河《たにがわ》を隔てて、大いなる巌洞《いわあな》あり。水の瀬激しければ、此方《こなた》の岸より渡りゆくもの絶えてなし。一日《あるひ》里のもの通りがかりに、その巌穴の中に、色白く姿乱れたる女一人立てり。怪しと思いて立ち帰り人に語る。驚破《すわ》とて、さそいつれ行きて見るに、女同じ処にあり。容易《たやす》く渉《わた》るべきにあらざれば、ただ指《ゆびさ》して打騒ぐ。かかる事二日三日になりぬ。余り訝《いぶか》しければ、遥《はる》かに下流より遠廻りにその巌洞《いわあな》に到りて見れば、女、美しき褄《つま》も地につかず、宙に下る。黒髪を逆《さかさ》に取りて、巌《いわ》の天井にひたとつけたり。扶《たす》け下ろすに、髪を解けば、ね
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