遠野の奇聞
泉鏡花

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)幽僻地《ゆうへきち》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)陸中国|上閉伊郡《かみへいごおり》

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 近ごろ近ごろ、おもしろき書を読みたり。柳田国男氏の著、遠野物語なり。再読三読、なお飽くことを知らず。この書は、陸中国|上閉伊郡《かみへいごおり》に遠野郷とて、山深き幽僻地《ゆうへきち》の、伝説異聞怪談を、土地の人の談話したるを、氏が筆にて活《い》かし描けるなり。あえて活かし描けるものと言う。しからざれば、妖怪変化《ようかいへんげ》豈《あに》得てかくのごとく活躍せんや。
 この書、はじめをその地勢に起し、神の始《はじめ》、里の神、家の神等より、天狗《てんぐ》、山男、山女、塚と森、魂の行方、まぼろし、雪女。河童《かっぱ》、猿、狼、熊、狐の類《たぐい》より、昔々の歌謡に至るまで、話題すべて一百十九。附馬牛《つくもうし》の山男、閉伊川の淵《ふち》の河童、恐しき息を吐《つ》き、怪しき水掻《みずかき》の音を立てて
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