ばねばとして膠《にかわ》らしきが着きたりという。もっともその女|昏迷《こんめい》して前後を知らずとあり。
何の怪のなす処なるやを知らず。可厭《いや》らしく凄《すご》く、不思議なる心持いまもするが、あるいは山男があま干《ぼし》にして貯《たくわ》えたるものならんも知れず、怪《け》しからぬ事かな。いやいや、余り山男の風説《うわさ》をすると、天井から毛だらけなのをぶら下げずとも計り難し。この例本所の脚洗い屋敷にあり。東京なりとて油断はならず。また、恐しきは、
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猿の経立《ふつたち》、お犬の経立《ふつたち》は恐しきものなり。お犬とは狼のことなり。山口の村に近き二ツ石山は岩山なり、ある雨の日、小学校より帰る子どもこの山を見るに、処々の岩の上にお犬うずくまりてあり。やがて首を下より押上ぐるようにしてかわるがわる吠《ほ》えたり。正面より見れば生れ立ての馬の子ほどに見ゆ、後《うしろ》から見れば存外小さしと云えり。お犬のうなる声ほど物凄《ものすご》く恐しきものなし。
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実《げ》にこそ恐しきはお犬の経立ちなるかな。われら、経立なる言葉の何の意なるやを解せずと
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