、軒の寂しき辺《あたり》には、到る処として聞かざるなき事、あたかも幽霊が飴《あめ》を買いて墓の中に嬰児《えいじ》を哺《はぐく》みたる物語の、音羽にも四ツ谷にも芝にも深川にもあるがごとし。かく言うは、あえて氏が取材を難ずるにあらず。その出処に迷うなり。ひそかに思うに、著者のいわゆる近代の御伽《おとぎ》百物語の徒輩にあらずや。果してしからば、我が可懐《なつか》しき明神の山の木菟《みみずく》のごとく、その耳を光らし、その眼を丸くして、本朝の鬼《き》のために、形を蔽《おお》う影の霧を払って鳴かざるべからず。
この類《たぐい》なおあまたあり。しかれども三三に、
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……(前略)……曾《かつ》て茸を採りに入《い》りし者、白望の山奥にて金の桶《おけ》と金の杓《しゃく》とを見たり、持ち帰らんとするに極めて重く、鎌にて片端を削り取らんとしたれどそれもかなわず、また来んと思いて樹の皮を白くし栞《しおり》としたりしが、次の日人々と共に行きてこれを求めたれど終《つい》にその木のありかをも見出し得ずしてやみたり。
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というもの。三州奇談に、人あり、加賀の医王山《い
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