おうせん》に分入りて、黄金の山葵《わさび》を拾いたりというに類す。類すといえども、かくのごときは何となく金玉の響《ひびき》あるものなり。あえて穿鑿《せんさく》をなすにはあらず、一部の妄誕《もうたん》のために異霊《いれい》を傷《きずつ》けんことを恐るればなり。
また、事の疑うべきなしといえども、その怪の、ひとり風の冷き、人の暗き、遠野郷にのみ権威ありて、その威の都会に及び難きものあるもまた妙なり。山男に生捕られて、ついにその児《こ》を孕《はら》むものあり、昏迷《こんめい》して里に出《い》でずと云う。かくのごときは根子立《ねこだち》の姉《あねえ》のみ。その面《おもて》赤しといえども、その力大なりといえども、山男にて手を加えんとせんか、女が江戸児《えどっこ》なら撲倒《はりたお》す、……御一笑あれ、国男の君。
物語の著者も知らるるごとく、山男の話は諸国到る処にあり。雑書にも多く記したれど、この書に選まれたるもののごとく、まさしく動き出づらん趣あるはほとんどなし。大抵は萱《かや》を分けて、ざわざわざわと出で来り、樵夫《きこり》が驚いて逃げ帰るくらいのものなり。中には握飯を貰いて、ニタニタと打
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